2023年竣工山﨑建設株式会社東北支店
-住宅のような距離感のオフィス-
PROLOGUE

東北の震災復興に尽力してきた建設機械の土木工事会社の東北支店建替計画です。既存建物の東北支店が50年の節目を迎えたことから、建替えに当たっては、次なる50年に向けて気候変動や社会情勢など変化の大きい時代にも柔軟に対応できるような働き手の意識づくり、環境づくりを大切にしたいと考えました。

PROJECT MEMBER
プロジェクトメンバー
櫻本 敦士
櫻本 敦士意匠設計 入社6年目
前田 朋宏
前田 朋宏構造設計 入社15年目

01.震災から学び、関係性をつなぐ住宅のような距離感のオフィス

いまなお残る震災の爪痕

計画敷地は仙台市若林区であり、同区には津波の被害を大きく受けた荒浜地区があります。震災から10年以上経過した今でも、被害の大きさを物語る爪痕がいくつも残されています。荒浜小学校では地域の人々が屋上に避難できたことで多くの命が救われました。新社屋においても屋上に避難用のバルコニーを設けたいとお施主様からの要望がありました。

お互いを緩やかにつなぐ視線や距離感

壁で仕切るのではなく、スキップフロアでゾーン分けをすることにより、お互いの視認性や距離感を状況に応じてコントロールできるような断面ゾーニングとしました。集中したり、コミュニケーションを取ったり、食事をしたり、議論をしたり、リフレッシュをしたり、それぞれが状況に応じて適した場所を自由に選択することができます。まるで家に居るかのように居心地のよいオフィスを目指しました。

初期のスキップフロアイメージ

既存建物に面した北側2階の食堂や、避難用バルコニーは、壁で閉じたり階を分けてしまうと限られた時間しか使われないスペースになってしまうことから、それぞれを吹き抜けや開口で視線が通るようにし、それらをスキップフロアで緩やかに結びました。使用環境を限定しないことで、各プログラムを自然と足を運びやすく、その時の仕事内容やモチベーションに適した場所を、働き手が自ら選択します。

02.各ゾーンをつなぐ大空間をつくるために

スキップフロアを実現し、かつ各ゾーンにシームレスなつながりを持たせるために、これらの空間には柱を落とさないようにする必要があると考えました。そこで柱梁をリブ状に一定のリズムで連続させることで、在来工法のRC造でありながら、11m×11mの無柱空間を実現しました。

仮設ササラ取り外し後の状況
仮設ササラによる固定状況
ゾーンをつなぐ浮遊感のある片持ち階段

ボックス形状の各ゾーンをつなぐ階段は、それぞれの場を緩やかに柔らかく繋ぐために、そっと添えるように浮遊感のある設えとしました。片持ち階段を支持する側のササラを耐力壁内部に埋込とし、もう一方の側は施工中は仮設ササラを取付けて施工精度を確保して、タモ材の仕上の施工を行う直前で、コンクリートの硬化を確認したのち仮設ササラを取り外しました。

デザインと快適なオフィス環境を両立する

吹抜け空間でありながら快適な執務空間を実現するために、適切な空調・換気計画が不可欠です。空気環境の快適性に配慮しつつ直天井の意匠を損なわないよう壁吹き出しや、はね出しのスラブ下に吊り型の空調を採用するなど、小規模な面積のオフィスでありながら、設備計画においては意匠設計と細やかな連携を行いました。

空調の効きムラが生じないように、任意に吹抜け断面を切り出して非定常解析を行いました。空調所要時間と温度分布を推定し、快適な温熱環境となることをシミュレーションによって確認しながら計画をしました。

03.企画設計から設計監理まで担当者が同じだからできること

本プロジェクトは、意匠設計がPMと当時設計配属1年目の私、構造設計1名、設備設計1名のごく少人数で設計をスタートし、設計期間1年、工事期間1年の計2年間を同じメンバーで竣工まで作り上げることができました。各フェーズが部門で分かれていない為、お施主様の思いや、設計者としての信念を最後まで貫き通すことができました。

竣工後も愛される建築を

建物が竣工してお引渡しした後、初めてこの建物を訪れた際に、エントランスには真っ赤な富士山の絵が飾られていました。この位置に絵が飾られることは伺っていなかったので大変驚いたのと同時に、建物を大切にご利用頂いているのが垣間見えて、大変嬉しく感じました。

戸田建設東北支店が一丸となって

戸田建設の東北支店は良い意味で小規模で、各部署の顔と名前をお互いに認識できており、設計者同士だけでなく、営業、積算、設備、生産設計など関係各所が設計者の近く、時には隣の席にいる環境で、密に相談し、協力してプロジェクトを進めることができています。今後もメンバーが一丸となって、人の温かみのある、人に愛される建築を作り続けられればと思います。

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