2023年竣工太平洋セメント株式会社 埼玉工場 事務所棟
-地域素材を表出し自然と調和するコンクリート・オフィス-
PROLOGUE

本計画は、日本最大のセメントメーカーである太平洋セメント様の工場事務所です。操業約70年を迎え、旧事務所棟は老朽化しており、大地震の予測や社会的な潮流であるウェルビーイングの観点から、耐震性の向上や業務環境改善を目的として事務所棟の建替に至りました。

PROJECT MEMBER
プロジェクトメンバー
乾 正人
乾 正人意匠設計・PM 入社19年目
福田 雄太郎
福田 雄太郎意匠設計 入社7年目
宮﨑 孔貴
宮﨑 孔貴構造設計 入社10年目
嶋田 祐典
嶋田 祐典設備設計 入社8年目

01.既存事務所棟の設計思想を引継ぎ、セメント工場ならではの建物を

既存事務所棟に込められた想い

建替計画にあたり、まず初めに敷地調査を行いました。計画敷地は、埼玉工場の正門から一番最初に目に入る場所であり、工場の顔となる立地であると感じました。周辺は樹齢が長い高木に囲まれ、自然あふれる様子も印象的でした。北西面に向いたファサードにはルーバーが設けられ、環境負荷低減を兼ねた縦基調のデザインから前任設計者の込めた想いを感じました。

素材へのこだわり

エントランスの床材には人工大理石の「研ぎだし仕上げ」が採用されておりました。エントランスとしての意匠的な演出だけではなく、工場の従業員が日々何度も踏み歩く床面だからこそ、耐久性が高く清掃性にも優れた素材が選定されており、長きに渡り工場を支えてきた重要な床であると感じました。

武甲山の石灰石

さらに、埼玉工場で取り扱う石灰石は、工場から約23km離れた秩父の名山「武甲山」で採掘された物で、地下ベルトコンベアによって工場まで直送されています。武甲山の石灰石は薄灰色に特徴があります。こうした地域ならではの素材を設計に取り入れることで、地域とのつながりを創出できると考えました。

与条件を設計提案に落とし込む

敷地の情報や工場の特徴など、一通りの与条件を整理した後、設計提案のフェーズに入りました。正門からみえる工場の顔としてのファサードデザインのスケッチを描いたり、既存事務所棟の設計思想を踏襲した縦基調のスリッド窓の配置・光の入り方など、内部プラン検討と外装検討を並行して進めました。描いた線が初めて実現するワクワクに満ちていたのを覚えています。

地域性を顕在化するコンクリート表現

本プロジェクト最大の特徴は、2階の外壁で採用した「コンクリートチェーン引き仕上げ」です。コンクリート化粧打ち放しの表面を専用工具によって削り、唯一無二のテクスチャを実現する仕上げです。表面を削り出すことでコンクリートの骨材である「武甲山の石灰石」を表出し、地域ならではの色味を表現しました。模様は既存事務所棟の縦基調ラインを踏襲し、ピッチは自然的な「ゆらぎ」のデザインを採用することで、周辺の自然と無機質なコンクリートを調和させることを目指しました。

3種のコンクリート表し仕上げ(コンクリ―ト化粧打ち放し仕上げ、コンクリートチェーン引き仕上げ、杉板本実型枠仕上げ)を組み合わせた外観。抱きの深いスリット窓は西日を遮蔽する機能を持ちます。

コンクリートチェーン引き仕上げの詳細部。3種の幅の専用工具によりコンクリート表面を削り出し、「ゆらぎ模様」を表現。削り出した部分は骨材(武甲山の石灰石)が表出し、地域ならではの色味となります。

エントランスホールはコンクリ―トの構造体を表出させ、素材の持つ力強さを表現しました。床材は既存事務所棟を踏襲したコンクリート研ぎ出し仕上げを採用し、機能性だけでなく、社員方々に愛着を持ってもらえるように想いを込めました。

02.素材を美しく魅せるための追及

コンクリ―ト目地へのこだわり

鉄筋コンクリート造の建物には施工手順の中で生まれる「打ち継ぎ目地」があります。チェーン引き仕上げの縦基調を美しく魅せるために、水平に入る打ち継ぎ目地を「眠り目地」とすることに挑戦しました。眠り目地を実現するために、壁の強度計算を個別に行い、構造スリットを中止するための早期検討が必要でした。また、施工手順や型枠の寸法を施工者と共に細かく検討し、モックアップでの失敗を経て、本番は美しく仕上げることが出来ました。

コンクリート天井へのこだわり

今回の計画ではボイドスラブを採用することで事務所の大スパン(10m)を実現しました。ボイドスラブとすることで小梁が不要となり、設備的な計画の自由度が向上すると共に、意匠的にもスラブ裏がフラットで美しい仕上がりを実現しました。

また、設備配管やダクトはBIMを用いて検証しました。BIMは設備・構造・意匠の干渉確認を行うだけでなく、天井がある位置に大きな設備機器を据え付けるなど、ボイドスラブが美しく見えるように設備配管のルートを工夫しました。

プロジェクトメンバーでの集合写真。密にコミュニケーションをとり、お互いの想いを汲み取り合いながら設計できたからこそ、細部までこだわり抜いた建物となりました。

03.ゼネコンで設計に携わるということ

本プロジェクトでは、チェーン引き仕上げや眠り目地など、前例がほとんどない技術への挑戦の連続でした。その一つ一つを達成出来たのは、ゼネコンとして、設計と工事が密に連携することでそれぞれのスペシャリティ・技術力を発揮し、建築主様にもご理解をいただきながら前に進み続けられたからだと思います。
沢山の想いを込めたこの建築が、会社の方々・地域の方々に親しまれる存在になれることを願っています。

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